執筆・監修:行政書士 植松悠一郎
長野県大町市を拠点に、建設業許可申請を取り扱う行政書士
個人事業主として建設業許可を持っている方が法人成りするとき、
「今の建設業許可はそのまま法人で使えるのか」
「法人になったら許可を取り直す必要があるのか」
と疑問に思うことがあります。
結論からいうと、法人を設立しただけで、個人事業主の建設業許可が自動的に法人へ移るわけではありません。
ただし、現在は建設業法に基づく事前認可を受けることで、法人成りの際に「建設業者としての地位」を法人へ承継できる場合があります。
そのため、
「個人と法人は別だから必ず新規申請」
とも、
「会社を作ればそのまま許可を引き継げる」
とも限りません。
法人成りを予定している場合は、会社を設立してから許可について考えるのではなく、法人設立前の段階で、事業承継認可を利用するのか、法人で新規申請するのかを整理しておくことが重要です。
結論|法人成りでは事前認可で許可上の地位を承継できる場合がある
法人成りした場合の建設業許可には、大きく分けて次の2つの進め方があります。
| 進め方 | 建設業許可の扱い |
|---|---|
| 事業承継の事前認可を利用する | 個人事業主から法人へ「建設業者としての地位」を承継できる場合がある |
| 事前認可を利用しない | 法人自身が新たに建設業許可を取得する |
重要なのは、法人設立だけでは個人の許可が自動的に法人へ移らないということです。
一方で、2020年10月1日から始まった事業承継の事前認可制度を利用できれば、個人から法人への法人成りでも、一定の条件のもとで建設業者としての地位を承継できます。国土交通省関東地方整備局の公式資料でも、個人から法人への法人成りは、事業譲渡による承継の類型として示されています。
したがって、法人成りを予定している場合は、最初に次の3点を確認します。
- 事業承継の事前認可を利用できるか
- 法人が承継日時点で建設業許可の要件を満たせるか
- 法人設立日、認可申請日、事業を法人へ移す日をどのように設定するか
ここを決めずに法人設立を先行すると、役員構成や技術者、営業所、日程を後から調整しなければならない場合があります。
個人事業主の許可は法人設立だけでは自動で引き継がれない
個人事業主と法人は、法律上は別の事業主体です。
そのため、個人事業主として取得した建設業許可について、株式会社や合同会社を設立しただけで、その法人が当然に同じ許可を使えるようになるわけではありません。
単純な屋号変更や名称変更と同じ手続ではないということです。
たとえば、個人事業主の「山田建設」が株式会社を設立して「株式会社山田建設」になったとしても、法人が個人名義の許可をそのまま使えるわけではありません。
ただし、これは「法人成りしたら必ず個人の許可を廃業して、法人でゼロから取り直す」という意味でもありません。
建設業法第17条の2に基づく事前認可を利用できる場合には、個人事業主から法人への事業譲渡として、建設業者としての地位を承継できる可能性があります。
まだ建設業許可を取得しておらず、「個人のまま先に申請するか、法人化してから申請するか」を検討している方は、「個人事業主の建設業許可と法人化の考え方」もあわせて確認してください。現在の受注予定と法人化の時期によって、適した順番が変わります。
法人成りで使える「譲渡・譲受けの事前認可」とは
建設業許可の事業承継制度は、2020年10月1日に始まりました。
制度開始前は、個人事業主から法人へ事業を移す場合、原則として個人の許可を廃業し、法人が新たな許可を受ける必要がありました。そのため、手続の進め方によっては許可のない期間が生じる問題がありました。
現在は、事業の譲渡についてあらかじめ認可を受け、予定どおり事業譲渡が行われた場合には、譲受人である法人が建設業者としての地位を承継できる制度が設けられています。
法人成りの場合のイメージは、次のようになります。
事前認可を利用する場合
個人事業主として建設業許可あり
↓
法人の設立・許可要件の整備
↓
事業承継の事前認可を申請
↓
認可
↓
予定した譲渡日に事業を法人へ承継
↓
法人が建設業者としての地位を承継
ここで注意したいのは、「個人の許可証を法人名義に書き換える制度」ではないということです。
法律上は、事業譲渡について事前認可を受けることで、法人が建設業者としての地位を承継する仕組みです。
また、認可を受けるためには、承継する法人側が承継日時点で建設業許可の要件を満たしている必要があります。
そのため、個人事業主本人が法人の役員になるだけで、自動的に承継できるとは限りません。
法人の役員構成、常勤役員等、営業所技術者等、営業所、財産的基礎などを、法人側の体制として確認する必要があります。
長野県では譲渡日の2か月前までを目安に申請する
法人成りで事業承継の事前認可を利用する場合、会社を設立した直後に事業を法人へ移してから申請するのではありません。
事業を譲渡する前に認可を受ける必要があります。
2026年7月16日時点で、長野県は「譲渡・譲受け(法人成り)」の認可申請について、申請書を譲渡年月日の2か月前には提出するよう案内しています。
ここで混同しやすいのが、次の3つの日です。
会社設立日
法人が法律上成立する日です。
認可申請日
事業承継について、長野県へ認可申請書を提出する日です。
譲渡日
個人事業から法人へ建設業を移す予定の日です。
長野県が示している「2か月前」とは、会社設立日の2か月前ではなく、譲渡年月日の2か月前です。
そのため、
「来月会社を作るので、その日から法人名義で建設業を始めたい」
と考えてから手続を確認すると、予定どおり進めにくい場合があります。
申請後に補正や追加資料の提出が必要になる可能性もあるため、法人化の日程が決まった段階で、できるだけ早く全体のスケジュールを確認することが重要です。
法人成りと承継認可はどの順番で進める?
法人成りで事業承継認可を利用する場合の基本的な流れは、次のように考えます。
1.法人化の時期と譲渡予定日を決める前に承継方法を確認する
まず、現在の個人事業の許可内容と、設立予定の法人の体制を確認します。
この段階で、
- 事業承継認可を利用するのか
- 法人で新規申請するのか
という基本方針を整理します。
特に重要なのが、「会社を作る日」と「建設業を法人へ移す日」を同じ日だと考えないことです。
2.法人側の許可要件を登記前に設計する
法人を設立する前に、少なくとも次の点を確認します。
- 誰を法人の役員にするか
- 常勤役員等の要件を誰が満たすか
- 営業所技術者等を誰にするか
- 営業所をどこに置くか
- 必要な社会保険等の手続をどうするか
- どの許可業種を承継することになるか
会社設立後に初めて確認すると、役員構成や営業所の設定を変更しなければならない可能性があります。
3.法人を設立する
事前の要件確認をしたうえで法人を設立します。
長野県が公開している法人成りの認可申請書類では、譲受人である法人の登記事項証明書や定款などが添付書類として示されています。
つまり、認可申請そのものは法人設立後に進めることになりますが、許可要件や譲渡日の日程設計は法人設立前から行うという順番が重要です。
4.譲渡契約等を整えて事前認可を申請する
法人設立後、個人事業主から法人への事業譲渡に関する書類などを整え、認可申請を行います。
長野県では、譲渡年月日の2か月前には申請書を提出するよう案内されています。
5.認可後、予定した譲渡日に事業を承継する
認可を受けた後、予定していた譲渡日に事業譲渡を行うことで、法人が建設業者としての地位を承継します。
認可を受けただけで直ちに承継が完了するわけではなく、認可された内容に基づいて実際に事業譲渡が行われることが前提です。
6.承継後に必要な手続を行う
承継後にも、法人の状況に応じて必要となる届出や確認資料があります。
具体的な手続は個別の法人設立日や譲渡日、役員・技術者の状況によって変わるため、承継までだけでなく、承継後まで含めて予定を組んでおく必要があります。長野県の法人成り用資料でも、認可後に提出する確認書類が示されています。
整理すると、次のような時系列になります。
登記前
役員・常勤役員等・営業所技術者等・営業所・譲渡予定日を確認
↓
法人設立後
事業譲渡に必要な書類を整え、認可申請を準備
↓
譲渡予定日の2か月前までを目安
長野県へ認可申請書を提出
↓
認可後
予定した譲渡日に事業を法人へ承継
法人側で確認する許可要件と許可業種
事業承継認可を利用する場合でも、個人事業主が許可を持っているという理由だけで、法人が無条件にその地位を承継できるわけではありません。
譲受人である法人は、承継日時点で建設業許可の要件を満たしている必要があります。
主に確認するのは、次のような項目です。
- 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力
- 営業所技術者等(旧称:専任技術者)
- 財産的基礎または金銭的信用
- 誠実性
- 欠格要件
- 営業所の実態
- 社会保険等の届出
たとえば、個人事業主本人の経験を法人でも使う予定であれば、その人を法人でどのような立場にするのかを確認する必要があります。
また、営業所技術者等についても、法人の営業所で常勤できる体制になっているかを確認しなければなりません。
許可要件全体については、「建設業許可の要件を確認する」で詳しく解説しています。
許可業種は一部だけ自由に選んで承継できるわけではない
事業承継認可では、譲渡人が営む建設業の全部を譲渡することが前提とされています。
たとえば、複数の許可業種を持っている個人事業主が、
「この業種だけ法人へ移して、残りは個人に残す」
という形で、一部の建設業だけを自由に選択して承継する制度ではありません。
また、譲受人がすでに建設業許可を持っている場合などには、同じ業種について一般建設業と特定建設業の組み合わせによって、そのまま承継できない場合があります。
その場合、承継前に一部の許可を廃業するなどの調整が必要になることがあります。
個人事業主から新しく設立した法人への法人成りでは比較的整理しやすいケースもありますが、許可業種が複数ある場合は、現在の許可内容を確認してから承継方法を決める必要があります。
事前認可を使わない場合は法人の新規申請が必要
事業承継の事前認可を利用しない場合、法人設立だけで個人事業主の建設業許可が法人へ移ることはありません。
そのため、法人が建設業を営むには、法人自身が新たに建設業許可を取得する必要があります。長野県の許可運用に関するQ&Aでも、事前認可による承継を利用しない場合は、個人と法人を別の許可主体として扱う考え方が示されています。
事前認可を利用しない場合
個人事業主として建設業許可あり
↓
法人を設立
↓
法人が建設業許可を新規申請
↓
法人の許可取得時期と個人事業の廃業時期を調整
この方法で注意したいのが、許可の空白期間です。
個人事業の許可を廃業した後、法人の新規許可が出るまで期間が空けば、その間は法人が個人の許可を使って許可の必要な建設工事を請け負うことはできません。
ただし、
「必ず個人事業を先に廃業してから法人が新規申請する」
と一律に決まるわけでもありません。
個人側と法人側で必要な人員や許可要件をどのように維持するのかによって、進め方を検討する必要があります。
法人で新規申請する場合の一般的な準備や審査の流れについては、「建設業許可の申請準備と審査期間」で詳しく解説しています。
事業承継認可と新規申請の違い
法人成りの際に事業承継認可を利用する場合と、法人で新規申請する場合の主な違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 事業承継の事前認可 | 法人で新規申請 |
|---|---|---|
| 許可の扱い | 建設業者としての地位を承継 | 法人が新たに許可を取得 |
| 手続のタイミング | 事業譲渡前に認可が必要 | 法人として新規申請 |
| 長野県での日程 | 譲渡日の2か月前までの提出が案内されている | 新規申請の日程を別途組む |
| 法人側の許可要件 | 承継日時点で満たす必要がある | 新規申請者として満たす必要がある |
| 許可の空白 | 認可を受け予定どおり承継できれば、空白を避ける仕組み | 許可取得と個人廃業の日程によっては空白が生じる可能性がある |
| 許可業種 | 建設業の全部の承継が前提 | 法人が必要な業種を申請 |
事業承継認可は、許可の連続性を確保するための有力な選択肢ですが、どの法人成りでも必ず利用できる、あるいは必ず利用した方がよいという制度ではありません。
法人の設立時期、現在の許可業種、役員・技術者の配置、営業所、既存工事の契約状況などを確認したうえで判断する必要があります。
法人成りを決める前に確認したい項目
すでに個人で建設業許可を持っている場合、会社設立の手続だけを先に進めるのではなく、次の項目を確認しておくと全体の日程を組みやすくなります。
法人成り前の確認項目
- 法人をいつ設立する予定か
- 建設業を法人へ移す日はいつか
- 事業承継認可を利用できるか
- 法人の役員を誰にするか
- 常勤役員等を誰にするか
- 営業所技術者等を誰にするか
- 営業所をどこに置くか
- 現在の許可業種は何か
- 一般建設業・特定建設業の区分はどうなっているか
- 個人事業で受注している工事契約をどう扱うか
- 社会保険等の手続をどう進めるか
特に、法人の役員や営業所技術者等は、建設業許可の要件に直接関係します。
そのため、法人設立登記の内容を決めた後に許可要件を確認するよりも、登記内容を確定する前に建設業許可との整合性を確認した方が、手戻りを防ぎやすくなります。
また、事業譲渡に伴う契約関係、会社設立登記、税務、社会保険などについては、必要に応じて弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士など他の専門家との連携が必要になる場合があります。
まとめ|会社設立前に許可の承継方法と日程を決める
個人事業主が法人成りしても、個人名義の建設業許可が法人へ自動的に移るわけではありません。
一方で、現在は建設業法に基づく事業承継の事前認可制度があり、個人から法人への法人成りでも、一定の条件を満たせば建設業者としての地位を承継できる場合があります。
法人成りを予定している場合に重要なのは、次の4点です。
- 法人設立だけでは許可は自動承継されない
- 事業承継の事前認可を利用できる場合がある
- 長野県では譲渡年月日の2か月前には認可申請書を提出するよう案内されている
- 法人側も承継日時点で建設業許可の要件を満たす必要がある
特に、会社設立日、認可申請日、建設業を法人へ移す譲渡日は、それぞれ別に考える必要があります。
法人成りでは、会社設立日と建設業を法人へ移す日を別に考え、法人側の許可要件と事前認可のスケジュールを合わせる必要があります。法人化の時期が決まっている場合は、登記内容を確定する前に許可上の進め方を整理しておくと手戻りを減らせます。
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